2021.09.21 笑顔とドライフラワー
岩本和裁 4代目 キサブローさん [後編]
着物デザイナーとして、また、創業100年の仕立て屋”岩本和裁”の4代目として国内外で様々なご活躍をされているキサブローさんにお話を伺いました。[後編]
全てのボーダーを越えた新しい表現を提案する、というキサブローさんの掲げるコンセプトですが、”和服と洋服”、”男性と女性”といったくくりの他に、今はどんなボーダーがあるように感じる、とか、前の話に繋がるかもしれないですが、ボーダーを超えるためにはこういうことが大事だよね、とか、そういった感覚はありますか?
自分でコンセプトにしながら結構、難しくてまだまだちゃんとできていないところではあるんですけど。
まあ、コンセプトってそもそもそういう部分もありますよね。
いつまでも解けない問題みたいなものではあるんです。 ボーダーについて、私は男としても女としても強く意識して生きていないから、変な嫉妬に巻き込まれるということはないんです。 でも、実際に女性が会社でセクハラされるということはたくさんあって、衝撃的と言うか、昭和のまま…ということもあるんですよね。結構びっくりしてしまう。 加えて、私が見えていないボーダーラインとして、着物でいうと、消費者と生産者の間のボーダーもあると思っています。着物って簡単に着れないじゃないですか、どうしても、それなりに知識がいるところがあって。 昔は、(着付けは)生活の中で学べた様な事、生きていく上で必要な事だと思うんですけど、今は普段の生活の中で学ぶ事ができない。 特に小さい子は、どこで着物と触れるきっかけをつくれるかを考えています。 大人も然りです。
では、着物はこういう新しい形でもいい、という着物へ興味を持つ様なきっかけ作りとともに、並行して、着物デザイナー、生産者として消費者へ基盤も伝えていく、というイメージなのでしょうか?
そうですね、着物は自由だ、という事は基礎として伝えつつ、日本って日本列島が縦に長い分、各地の生地に特徴があって面白いんです。 そういう話は学校で教える事でもないとは思うのですが、自分の国を知る、日本文化の面白いところはたくさんあるので、それを伝えるきっかけは大事にしていきたいです。
アニメとのコラボレーションや、SNSの発信など、着物を知るきっかけって色々ありますが、生地など着物の素材そのものにもあるのは盲点でした。
私、今の学校教育ってすごいなと思っていて。私は家のお仕事で、和裁教室もやっているのですが、その時に家庭科をほとんどの方が学習しているので、糸もたやすく使えるし、玉留めも特に教えなくても皆できちゃうんですよ。 でもたまたま、一般的な学校ではない所に通われていて家庭科をやってこなかった方に教える機会があり、大変でした。
不器用ということでもなくですか?
まず、針と糸の使い方がわからない。 並縫いやまつり縫いってあるのですが、割とみんな並縫いはできるし、まつり縫いもできなかったとしてもなんとなく分かる。 その家庭科を通してやった、なんとなく分かるがあるかないかでこんなにも違うのかと思って、学校教育も捨てたもんじゃないと思ったんです。
義務教育のありがたみをそんな場面で…
興味はなくてもいろんな事を教えてもらえる。 日本人ってだいたい教養があるじゃないですか。全く教育を受けていない人はなかなかいないわけで、すごいシステムだなと思います。
ちなみに、玉結びはできる様になったのでしょうか?
その方は、体験会だけですが、手縫いで袋を完成できました!
その方も、ここまで出来なかったんだ、という気付きがありそうですね。
そう、だから、小さい頃に見たり触れるだけでも違うんだろうなと思います。教育に踏み込む必要があるかどうかはわからないんですが、きっかけはたくさん持っていたいですね。
なるほど、やはりスタイルに加え、そういった教育の部分も、現場に立っていると重要に感じますよね。どちらも結局大事と言いますか…。
そうですねえ、なりますねえ。
あ、でもお花とかもそうじゃないですか?
学校でたまにあるじゃないですか。華道とか茶道とか…。
大きいですね…笑
私はそれで今、苦労していますね。花って、立体だし色あるし、生き物なので、人間の力でどうにもならない部分もあって大変です。生地とかもある意味、天然素材だと生き物っぽくもありそうですよね。
そうですね。天然繊維と、化学繊維があって。 どうにもならない部分、今度教えてください笑
わかりました笑
また、質問に戻るのですが、先のSNSで連絡をくれる人たちの様に、若い方へ何かメッセージを送るとしたらどんなものがありますか?
特に私が偉い立場ではないので。むしろ若い方達の方がすごいなと思っています。
確かに若い方も、SNSを通じて着物を独自に着こなしてバズっている方なども見かけますね。すごいなあと私も感じます。
そうなんです。頭もいいし、英語も喋れるし、驚異ですよ笑
そうですよね…、私もZ世代向けのアプリというのでしょうか、TikTokなんかも、定期的にみる様にしています。普通に勉強になるコンテンツもあって。老害にならないようにしたいです。
なりたくないですね笑
それより、仲良くしよう、という感じです笑
なるほどー!若い人たち、正直、なんでこんなに若くて賢いのにそんなに悩んでいるんだろうというと思う時はあります。
悩んでいる方へ、ということでしたら、コロナ禍もあるし、悩んでいるのは若い方達だけでもないと思うんですよ。 でも、とにかく、一緒に社会を良くしていこう、と思っています。 あとは、私たちの世代が悩んでいた事、例えばジェンダーの問題もそうですが、案外若い人たちの方が先に解決してたりするんですよ。差別や偏見がなかったり、そもそもそんなことで悩んでない、とか。
それも確かに盲点だったかもしれません。 一番、最高の状態ですね。
次の質問なのですが、キサブローさんはモノつくりをする際に、コンセプトに沿って決める方なのでしょうか?それともコンセプトから一旦はなれてアイデアを出す方なのでしょうか?
2020年8月に行われた、”るすにする”というオンラインイベントは、古い日本の史実からインスピレーションを受けたとのことですが、どういう風に思い浮かんだ事を組み立てるタイプなのかなと思いました。
私の場合は、いきなりビジュアルが浮かんでビジュアル先行でつくることもあるんですけど、そうすると仕上がりが弱いんですよね。裏付けだったりとか、デザインもどんどん弱くなっていってしまうので、やはりコンセプトは大事です。 昔の日本人がどういう考え方で物事を解決してきたか、あとは当時の生活習慣や風習自体がユーモアがあって面白いなと感じる事が多いので、ヒントにしています。”るすにする”に関して言えば、現代はコロナ禍ですが、昔だって伝染病が流行ったり、似た様なことはあったんだと思います。 その時に、江戸の人ならどうやって解決したかな、その姿勢を現代に持ち込んだらどう見えるかな、と楽しみながらアイディアに落とし込むようにしています。 エヴァンゲリオンもそうですよね、聖書からヒントをもらっていたり。物語に深みを持たせるために、様々な知識を入れる。結果的にその方がいろんな方がグッと来るものになる得ると思います。
説得力が増しますよね。あとは…以前、他の記事でキサブローさんは、小さい頃に着る着物が花柄であまり好きではなかった…と読んだことがありますが、今は何か好きな柄や花はありますか?
柄としては菖蒲が好きです。まっすぐと伸びて、葉も直線的で。デザインに落とした時かっこいいなと思います。 赤やピンクで表現することも少ないので、そういうところも好きです。
面白いですね。お花も、一輪で構図として成り立ちやすいものと、成り立ちにくいものってあって、まさに菖蒲なんかもそうなんですよね、堂々としてかっこいいですよね。菖蒲。
…私、ある意味でお花をディスってますよね笑
いや、そんなことはないです!笑
小さい頃から、お花って女の子のイメージが強かったせいか好きじゃなくて、あまり慣れ親しんでこなかったんですよ。 観葉植物は好きでよくグリーンを育てたりはするのですが、花ってあまり知らない世界なんです。
謳花は割と可憐で華々しくはないのですが、一応、違う領域の認識でいていただいているのでしょうか…?笑
違う領域だと思っています笑
最後に、これもさっきの質問につながるかもですが…これからキサブローさんの様に着物のデザインや着付けをやってみたい、
もしくは伝統のもので新しいことをしてみたい!という人へ一言お願いします。
そういう方、結構相談に乗ったりもしますね。
素晴らしいことだと思いますよ。そんなに若くして伝統のものに興味を持つなんてなかなかないので、ガンガンやっていきましょう!と思っています。
実際に会ってくれるとおっしゃっていましたもんね。
会いますね!実際に一緒にお仕事をすることもあります。
確かにある意味、それだけの思いがあったり、キサブローさんや作品が好きで来ているんでしょうし、一番信用できる相手かもしれないですよね。
そういう出逢いは嬉しいですし、興味がある分、一緒に仕事もしやすい。これからも有ると思います。
確かに、自分も憧れの人にお声がけして何かやった時って、好きです!という熱量がベースなので、頑張れていた覚えがあります。 大事ですよね笑
大事ですよ笑
年齢があがる毎に恥ずかしさも増してしまうのですが、その部分大事ですよね。
それをやれていた時のことを忘れず、やっていきたいと思います…!
キサブローさん、ありがとうございました。
お名前 | キサブロー |
プロフィール | 創業90年の仕立て屋「岩本和裁」の4代目<キサブロー>は、着物業界の革新的存在であった初代・岩本喜三郎の名を受け継ぎ、和洋のみならず性別のボーダーを越え、全ての人々を既成概念から解放することを目標に、ありのままの自分に寄り添うアウトフィットを提案するブランドです。 「自分自身が望むライフスタイルを」「出来るだけ心地よく身に纏う」。そんな心身共にリラックスした状態こそキサブローが目指す「着物」の在り方です。
また、直線裁ちにより残布を出さない「着物」が本質的に持つエコな成り立ち、それを守って来た日本の先人達の取り組みに敬意を表し、限りある資源と地球環境に対して微力ながらも貢献が出来るよう、モノづくりに真剣にやんちゃに取り組んで行きたいと考えています。 |
出身 | 東京 |
休日の過ごし方 | 異国の紀行文を読む事にハマってます。 |
好きな花 | まだこれが1番好き!という花がないのでこれから出会う事を楽しみにしてます。 |
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